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遺言の効力
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- 遺言の効力の発生
- 停止条件付遺言
- 遺贈効力発生時期
- 特定物の遺贈
- 遺言執行者の任務
- 遺贈の放棄
- 遺贈放棄の期間
- 特定受遺者の遺贈放棄
- 遺贈義務者の催告権
- 特定受遺者の相続人の承認・放棄
- 遺贈の承認・放棄の取消、無効
- 包括遺贈と相続の差異
- 受遺者の担保請求権
- 受遺者の果実取得権
- 遺贈義務者の費用償還請求権
- 遺言の効力発生前の受遺者の死亡
- 遺贈の無効・相続財産に属しない権利の遺贈
- 遺贈義務者の権利・義務
- 不特定物の遺贈義務者の担保責任
- 受遺者の追奪担保責任
- 遺贈義務者の瑕疵担保責任
- 遺贈の目的物についての物上代位性
- 第三者の権利の目的である財産の遺贈
- 債権の遺贈の物上代位性
遺言の効力の発生
① 遺言は、一定の方式にしたがって遺言書が作成されたときに成立します。このとき、意思表示としても法律行為としても遺言は成立し、その効力発生の時期は、遺言者死亡のときに発生すると解されています。
② これに対し、遺言の意思表示としての効力は、遺言の成立すなわち遺言書作成のときに生じ、法律行為としての効力は、遺言者死亡のときに生ずる、と述べる見解もあります。
③ 遺言はいつでも遺言者が自由に撤回できるとされるため、遺言者死亡時までは、法律上保護されるべき固定的な権利義務関係がそこから生ずるとは言えません。遺言者死亡時までは、意思表示としても法律行為としても、その効力は生じないというべきでしょう。
④ 遺言は、遺言書作成のときに成立し、遺言者死亡のときに効力を生じ、それまでは遺言者はいつでもこれを撤回する自由を持ちます。したがって、たとえば、受遺者は、遺言の成立により遺言者死亡のときに遺贈を受けるという期待を持ちうるけれども、いつでも撤回されるという制限に服するために、かかる受遺者の期待は、法律上の権利と呼ぶに値しないでしょう。
⑤ 推定相続人は、被相続人の死亡により相続するという、いわゆる期待権的相続権を持っているが、相続開始までに廃除されることもあり、欠格事由が発生することもあります。
⑥ しかし、推定相続人を廃除するにしても、後に欠格事由ありとすることも、それにつき積極的事由があることを必要とし、被相続人の自由な意思表示により推定相続人の期待権は、みだりに奪われることはありません。
⑦ だが、同順位相続人の増加、先順位相続人の出現などにより影響を受け、その内容が弱いことになります。
停止条件付遺言
① 遺言の内容に、条件を付することが許される場合(法律行為の効果を確定的に発生・存続・消滅せしめることを要するものに条件を付することは許されない。その例として認知)には、停止条件付遺言をすることができます。たとえば、受遺者の婚姻を停止条件として家屋を遺贈するというような場合です。
② 受遺者は、遺言者の死亡により停止条件付権利を取得し、条件の成就により完全な権利を取得することになります。推定相続人が犯罪の嫌疑によって拘留されたため、被相続人が推定相続人を廃除するという遺言は、刑の確定のときに効力を生ずる停止条件付遺言であると認められるでしょう。
③ 民法第985条第二項の「遺言は、条件が成就したときからその効力を生ずる」という文言は、遺言の効力は、遺言者死亡のときに停止条件的に発生し、条件が成就したときに無条件の遺言としての効力を生ずる、という意味に解せられるでしょう。
④ 遺言者が遺言により条件成就の効果に遡及効を与えるときは、その効果は認められて良いでしょうが、遺言者の死亡前に遡及することは許されません。
⑤ 停止条件付遺言がなされたが、遺言者死亡以前に条件が成就すれば無条件の遺言となります。また、不成就が確定すれば、条件にかかる内容につき無効の遺言となります。
⑥ 解除条件付遺言も可能であり、遺言者死亡のとき、すでに条件が成就していれば無効の遺言となり、不成就に確定しているときは、無条件の遺言となります。死亡後に条件が成就すれば、そのときから遺言は効力を失います。
⑦ 始期または終期を付することが許される遺言内容であれば、始期付または終期付遺言が可能です。遺産分割禁止に関する遺言は、禁止につき、遺言者の死亡後5年を超える終期を付することは許されません。
遺贈効力発生時期
① 遺贈がなされたとき、その効力発生の時期に理論上問題がないわけではありません。遺言者死亡のときに効力が当然に発生するとすれば、受遺者の意思とは無関係に効力が生ずることになります。
② しかし、受遺者には、遺贈を承認するか放棄するかの自由があり、放棄の効力は遺言者の死亡時に遡及するので、受遺者にとり結果的にはその意思が無視されるということにはなりません。だが、放棄の手続きをとるという面倒もあり、それまでの間に生じた法律関係に受遺者を巻き込んでしまうこともあります。
③ そのために、遺贈の効力を遺言者死亡のときに、当然に生ずるとはしないで、その効力発生を受遺者の意思にかからしめてはどうかという疑問が生じてきます。受遺者が遺言者の死亡を知らないときでも、また遺贈の事実を知らなくてもその効力が生ずることを考えれば、当然に生じてくる疑問です。
④ しかし、遺贈は受遺者の利益になるものであり、それを嫌う受遺者には放棄の自由があり、放棄手続きに若干のわずらわしさがあるにしても、格別の不利益を強制するとまでは言えないでしょう。また、遺贈が受遺者の承認のときから効力を生ずるとすれば、承認までの利益は相続人に帰し、あるいは、相続人が目的物を処分するなどの行為により、受遺者に不利益を与えることもあります。よって、遺言者の意思にも反すると考えられるので、遺贈の効力は、遺言者死亡のときに発生するとされたのです。
特定物の遺贈
① 特定物または特定の権利が遺贈されるときは、判例や多数説によれば、原則として当然に物権的に権利が受遺者に移転すると解されています。遺贈の効力発生と同時に、受遺者は権利者になり、したがって、たとえば、相続人が遺贈の目的物につき、相続登記をしていれば、その抹消請求や仮処分の申請なども、受遺者としての権利に基づいて可能になります。
② 第三者に対する対抗力は別問題です。被相続人が、生前、不動産をある相続人に贈与するとともに、他の相続人にもこれを遺贈した後、相続があった場合、この贈与および遺贈による物権変動の優劣は対抗要件としての登記の具備をもって決せられることになります。
③ 指名債権が特定遺贈された場合、遺贈義務者の債務者に対する通知または債務者の承諾がなければ、受遺者は、遺贈による債権の取得を、債務者に対抗することができません。
④ 不特定物が遺贈の目的とされるときは、遺贈義務者はそれを受遺者に移転する債務を負担し、特定物に転化したときに権利は受遺者に移転することになります。
⑤ 特定物が遺贈の目的となっているときでも、その権利をただちに受遺者に移転することができないとき、たとえば、農地の遺贈のように、権利移転のために知事の許可を受けなければならないときは、遺贈義務者は許可の申請をしなければならず、許可があってはじめて権利移転の効力が生じることになります。
⑥ 遺贈の目的が相続財産に属さないときは、遺贈義務者は、その権利を取得して、これを受遺者に移転しなければなりません。
遺言執行者の任務
① 遺言者の意思表示のみにより、遺言者死亡のときに効力を生ずるものとして次のようなものがあります。たとえば、遺言による未成年後見人や後見監督人の指定、相続分・遺産分割方法・遺言執行者の指定または指定の委託、遺産分割の禁止、相続人間の担保責任または遺留分減殺方法の指定などがあります。しかし、遺言の内容によっては遺言者の意思表示のみでは完全な効力を生じないものもあります。農地の遺贈もその一例です。
② 相続人の廃除または廃除の取消の遺言があるとき、遺言執行者は、遺言者死亡後、遅滞なく家庭裁判所に廃除または廃除の取消しを請求しなければなりません。そして、家庭裁判所の審判があれば、廃除または廃除取消しの効力は、遺言者の死亡時に遡及して生じます。遺言により、廃除または廃除の取消しの効果が生ずるのではなく、それを家庭裁判所に請求しうるにとどまるが、遺言執行者をして裁判所にそれを請求せしめる限りにおいて、遺言の効力は遺言者死亡のときに生ずるのです。
③ 認知は遺言によってすることもできます。遺言認知があれば、遺言執行者は就職の日から10日以内にその届出をしなければなりません。認知の効力は、遺言者死亡のときに発生するのか、あるいはまた、生存中の認知と同じく、認知の届出の受理によって生ずるのか問題です。これについて、届出のときではなく、遺言者死亡のときに効力が生じ、この出生時に効力が遡及するというのが一般的見解です。
④ 遺言認知の届出は、必然的に遺言者の死亡後になされるが、遺言認知は任意認知の一種であり、少なくとも遺言者死亡のときに効力を生ずると解するのが妥当であり、この場合の届出は、単なる戸籍上の手続きに過ぎず報告的届出です。
遺贈の放棄
① 遺贈は、遺贈者(=遺言者)のなす単独行為です。遺言の効力が生じたとき、すなわち遺贈者の死亡時に、死亡につき受遺者が知ると知らざるを問わず、またその意思とは無関係に、当然に効力が生じます。遺贈は、受遺者にとり利益になるのが原則ですが、利益になるとしても、その受益を受遺者の意思と無関係に強制してよい理由はありません。かくして、受遺者は遺贈者の死亡後いつでも任意に、遺贈を放棄することができるとされるのです。
② 遺贈をそのまま受けるには、受遺者による遺贈の承認であるが、承認により遺贈の効果が発生するのではなく、遺贈者の死亡により発生した遺贈の効果の確定にすぎません。いわば、放棄権の放棄です。承認といっても、受遺者による明示の意思表示が必要だというわけではなく、黙示のそれでもよいのです。
③ 遺贈には、包括遺贈と特定遺贈とがあります。包括受遺者は、相続人と同一の権利・義務を持つので、包括受遺者が遺贈を承認または放棄するについても、相続人の承認・放棄に関する規定が適用されます。よって、自己のために包括遺贈があったことを知ったときから、3月以内に家庭裁判所に放棄または限定承認の申述をしなければ、単純承認をしたものとみなされます。
④ したがって、民法第986条「受遺者は、遺言者の死亡後いつでも遺贈の放棄をすることができる」という規定は、包括遺贈には適用がなく、特定遺贈にのみ適用があります。特定遺贈は、受遺者をして債務を負担せしめないので、限定承認の問題は生じません。
遺贈放棄の期間
① 遺贈放棄するのに、期間の定めはありません。受遺者は、遺贈者の死亡後、いつでも遺贈放棄することができます。遺贈者の死亡前は、受遺者はなんの権利も取得していないので、死亡前の放棄は無意味です。
② 停止条件付遺贈は、遺贈者の死亡後、条件成就までは完全な効力を生じないが、なお条件付権利は受遺者に帰属するので、遺贈者の死亡後、放棄は可能です。
③ 遺言者が、放棄の期間を定めているときは、その期間の制限に服すると解されます。
④ 放棄は受遺者の自由ですが、債務免除の遺贈にだけは放棄できないとするのが多数説です。生前における債務免除が、債権者の単独行為によりその効力が生ずるのに対して、遺言による債務免除についてだけ放棄できるとすることは均衡がとれないこと、また、債務免除は受遺者にとり経済的に利益に働くことを、その理由としています。
⑤ 放棄の方式について規定はありません。包括遺贈の放棄は、家庭裁判所に対する放棄の申述によりなされますが、特定遺贈については別段の定めがないので、その形式は問わないにしても、意思表示の相手方が問題になります。
⑥ 判例・多数説は、遺贈義務者が相手方になると述べています。それが、遺贈義務者のなかに遺言執行者を含ましめる意味なのかどうか、必ずしも明らかではありません。廃除すべき理由はないので、遺言執行者もまた、遺贈義務者に含めてよいと思われます。
⑦ 遺言執行者の任務は、遺言者の申述の意思の実現にあり、必ずしも相続人の利益のためにのみ行為すべき義務はなく、むしろ、主として受益者の利益を保護することにあるからです。
特定受遺者の遺贈放棄
① 特定受遺者が、遺贈放棄するか否かは、包括遺贈の放棄ほどの重要性が利害関係人にとって生じないと一般的に言えるとしても、特定遺贈の放棄の期間に制限がないことは、遺贈義務者その他の利害関係人に権利関係の不安定を強要することになります。
② そのために、民法は、遺贈義務者その他利害関係人に、特定受遺者に対する承認または放棄についての催告権を与えています。
③ 遺贈の承認または放棄は、受遺者の単独の意思表示によりなされるので、放棄者が制限能力者であるときは、制限能力者の法律行為に関する制限に服します。破産法は、破産管財人が、受遺者に代わって遺贈の承認・放棄ができると規定しています。
④ 包括遺贈と異なり、特定遺贈の内容が過分であるときは、その一部の放棄も認められてよいでしょう。しかし、一部の放棄を禁ずる遺言があれば、それに従うべきかと思います。受遺者が、いったん遺贈を承認した後に、個々の受遺物についての権利を放棄することは自由ですが、これは遺贈の放棄ではありません。
⑤ 特定遺贈の効力は遺贈者の死亡のときに遡及して生じます。遡及しなければ、遺贈者の死亡後、遺贈の放棄までの間は、遺贈の目的物は受遺者に属することになり、放棄によりさらに他の者に移転するということになって、放棄の趣旨に反することになるからです。受遺者が受けるべきであったものは放棄により、遺言に特段の定めがない限り、相続人に帰属します。
遺贈義務者の催告権
総説
民法第987条は次のように定めています。すなわち、「遺贈義務者その他の利害関係人は、相当の期間を定め、その期間内に遺贈の承認または放棄をすべき旨を受遺者に催告することができます。もし、受遺者がその期間内に遺贈義務者に対してその意思を表示しないときは、遺贈を承認したものとみなします。」との規定です。
本条の趣旨
① 特定遺贈の受遺者は、遺言者の死亡後、いつでも遺贈の放棄ができ、放棄の効力は、遺言者の死亡のときに遡及して生じます。遺贈の放棄は自由にすることができますし、期間の制限もありません。相続人と同視される包括受遺者が、原則として遺言者死亡後三月以内に家庭裁判所に放棄の申述をしなければならないのと異なります。
② 特定遺贈の放棄につき期間の定めがないことは、必然的に、遺贈義務者その他の利害関係人に対し、権利関係の不安定を強要することになります。
③ そこで民法は、これらのものに対し、相当の期間を定めて、その期間内に遺贈の承認または放棄をなすべき旨を催告することができるとしました。そして、その期間内に、受遺者が遺贈義務者に対し放棄の意思表示をしないときは、遺贈を承認としたものとみなす、と規定したのです。
受遺者の死亡
① 受遺者が遺贈の承認または放棄についての催告を受け、催告期間内にそれに対しなんらの意思表示をすることなく死亡したときは、どのように解釈すべきでしょうか。
② この場合は、その相続人については、催告期間は、相続人が、自己のために相続が開始し、かつ、放棄または承認についての催告があったことを知ったときから起算される、と解されています。
相続人の催告
① 相続人が、複数人いる場合、受遺者への催告は、誰がすべきでしょうか。
② このような場合、各自は単独で催告することができると解され、催告に別段の方式はありません。すなわち、多数決で催告者を決する必要はないのです。
受遺者が制限能力者であるとき
① 受遺者が未成年者または成年被後見人であるとき、その法定代理人が催告の事実を知らない限り、催告をもって受遺者に対抗することはできません。承認または放棄について、確答を求める本条の催告は、いわゆる意思の通知ですが、意思表示の受領能力に関する民法第98条が準用されてよいのです。
② 遺贈が単純遺贈であり、受遺者が未成年者または被補佐人であれば、催告が受領された後、催告期間内に確答がないときは承認の効果を生じますが、負担付遺贈のときは、反対に放棄と解されるでしょう。
③ 負担は遺贈の対価ではなく、負担付遺贈は必ずしも受遺者である未成年者または被補佐人に不利益を与えるものではないですが、負担付遺贈を受諾するについて被補佐人は、補佐人の同意を得ることとされています。この場合、被補佐人の相手方の催告に対し、催告期間内に補佐人の同意を得た通知を発しないときは取り消したものとみなすという民法の規定(19条4項)の趣旨からそう解すべきものと思われます。
遺贈義務者
① 遺贈義務者とは、遺贈の内容を実現する義務がある者で、相続人であることが普通ですが、相続人のあることが明らかでないときの相続財産法人や包括受遺者も、特定受遺者に対する遺贈義務者となります。
② 特定不動産の遺贈があるときは、判例および多数説によれば、遺言者死亡のとき、所有権は受遺者に当然に移転しますが、その引き渡し、移転登記などの義務が遺贈義務者に課せられることになります。
③ 承認または放棄の意思表示の受領者は遺贈義務者であり、その他の利害関係人は受領権限を持ちません。別言すれば、遺贈義務者以外の者に対してなした承認または放棄の意思表示は、その効力を持ちません。
④ 催告期間を過ぎれば、承認とみなされてしまうことになります。
⑤ 承認・放棄の効果は、画一的に一切の利害関係人におよぶため、催告に関する確答は主たる利害関係人である遺贈義務者に対してなされるべきであるというのがその理由です。
遺贈義務者が数人いる場合
① 遺贈義務者として数人の相続人がいるとき、そのひとりに対してのみ放棄の意思を表示したとき、他の共同相続人に対しても、放棄の効力を生ずるのでしょうか。
② ひとりに対する放棄は絶対的効力を生じ、他の共同相続人に対してもその効力はおよぶと解されています。放棄の結果、遺贈は遡及的に消滅し、相続財産として各共同相続人の共同所有に属することになります。
③ 相続財産に復帰することにより、共同相続人に不利益を与えることもなく、また、放棄を知らない共同相続人に受益を強いることになるとしても、もともと遺贈がなければ各共同相続人に帰するはずであった相続財産が、それぞれに各相続人に応じて帰属するだけのことに過ぎないので、放棄に絶対的効力を認めても不都合はないのです。
特定受遺者の相続人の承認・放棄
総説
① 受遺者が、遺贈の承認または放棄をしないで死亡したときは、どうなるでしょうか。
② 民法第988条は、次のように定めています。すなわち、「受遺者が、遺贈の承認または放棄をしないで死亡したときは、その相続人は、自己の相続権の範囲内で承認または放棄をすることができます。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従います。」という規定です。
本条の趣旨
① 本条は、特定受遺者の遺贈の承認または放棄をしないで死亡したとき、その相続人のなす承認または放棄について規定しています。包括受遺者は、相続人と同視されるため、包括受遺者の相続人については、本条の適用はありません。
② 特定受遺者は遺贈の承認または放棄につき、自由を有します。受遺者が、遺贈を承認または放棄した後に死亡すれば、その相続人は、承認または放棄した受遺者の地位をそのまま承継するだけです。
③ 承認・放棄をしないで死亡したときも、かかる受遺者の地位を相続人が承継するだけで、格別の問題もなさそうに見えますが、相続人が数人あるときは、相続人が全員で承認または放棄をしなければならないのでしょうか。
④ また、全員による承認・放棄を必要としないとしても、そのひとりが放棄したときの放棄受遺分の帰属や、承認・放棄につき遺贈義務者その他の利害関係人からすでに受遺者に催告があったときは、受遺者の相続人につき催告期間をどのように考えべきか、などの問題が生じてきます。
遺言者の意思
① 相続により、受遺者の権利・義務は包括的にその相続人が承継し、受遺物についてもそうであるのが原則です。
② しかし、遺言者が、遺言に別段の意思表示をなしたときは、その意思に従います。たとえば、「越谷受遺者が遺贈の承認・放棄前に死亡したときは、受遺者に対する遺贈の効力を失わしめ、他のものに遺贈する」という、意思表示の場合です。
③ 遺言者の意思の尊重という点からみて、当然なことであり、本条本文は強行規定ではありません。
④ しかし、受遺者の相続人を不当に拘束する意思表示(たとえば、相続人に放棄を許さないとするなど)は許されません。
⑤ なお、受遺者の数人の相続人が、共同で承認し、または放棄すべきという意思表示は、差し支えないでしょう。
一部の相続人の放棄
① 受遺者の相続人が数人いるとき、各相続人は、それぞれの相続分にしたがって受遺者を相続し、遺贈についても各自の相続分にしたがって相続します。受遺者の承認・放棄する権利も、各共同相続人に独立に承継され、それぞれの受遺相続分につき、承認または放棄することになります。
② 遺贈の弁済期未到来の間は、遺贈義務者に対しそれぞれの受遺相続分の範囲内で、相当の担保を請求することができます。つまり、受遺者の相続人が、全員共同で承認し、または放棄をする必要はありません。
③ 本条が「自己の相続権の範囲内で」と述べているのは、各自の相続分にしたがってということを意味します。一部の相続人が相続した受遺分を放棄したとき、その放棄受遺分は、他の承認した共同相続人に、それぞれの相続分に応じて帰属すると解されます。
④ 相続人が、相続人たる地位そのものを放棄しているときは、遺贈の相続は問題になりません。それにつき、承認または放棄ということはありません。
⑤ 相続人が限定承認をすれば、その効果として受遺者の権利・義務の一切を承継し、ただ、相続によって得た財産の限度でのみ受遺者の債務を弁済する責を負うことになるので、遺贈を相続分にしたがって承継し、それは相続財産として計算されます。
⑥ しかし、その相続した受遺分につき、放棄または承認する権利を失わないと解されます。
催告期間の計算
① 受遺者が生前に、遺贈義務者その他の利害関係人から、相当の期間を定めて遺贈の承認・放棄についての催告を受け、確答しないうちに死亡したとき、受遺者の相続人につき、催告の起算点はどこにおかれるべきでしょうか。
② 受遺者の相続人は、受遺者の一切の権利・義務を包括的に承継するので、すでになされた催告についても、催告をめぐる法律関係をそのまま承継し、承認・放棄につき確定すべき期間の起算点も、受遺者になされた催告のときとみるべきように解されもします。
③ しかし、そうすると、受遺者の死後残存期間が短いときは、受遺者の相続人にとり酷な事態も生じかねません。そこで、相続人が承認または放棄しないで死亡したときの、その者の相続人の承認または放棄についての起算点を規定する第916条の趣旨を考慮すれば、次のように解すべきでしょう。
④ すなわち、受遺者の相続人が自己のために相続が開始したことを知り、かつ、被相続人たる受遺者に催告があったときことを知ったときから、受遺者の相続人についての催告期間は計算されるべきであると解されます。
⑤ 受遺者が生前、遺贈につき承認または放棄をしておらず、また、遺贈義務者その他の利害関係人からそれにつき催告もなければ、受遺者の相続人が、いつでも受遺相続分を承認または放棄することができるということは、当然です。
遺贈の承認・放棄の取消、無効
総説
① 遺贈の承認および放棄は、これを取消すことができません。この場合の取り消しは撤回の意味です。いったん特定遺贈につき、承認または放棄をすれば、任意の撤回は許されません。遺贈義務者その他の利害関係人を保護するため、任意の撤回が許されないのは当然です。
② 任意の撤回は許されませんが、遺贈の承認・放棄が詐欺もしくは脅迫によってなされたときや、受遺者が制限能力者であるにもかかわらず、単独で承認・放棄をしているときは、取消ができます。
③ 受遺者が、成年被後見人のときは、成年後見人の同意を得ているときも、一般的に取消は可能と解されています。
④ これらは、相続における承認・放棄の取消と同趣旨であり、取り消し権は追認可能なときから6ヶ月、承認または放棄のときから10年を経過すれば消滅します。
特定遺贈の承認・放棄の取消方法
① 特定遺贈の承認・放棄は、遺贈義務者(遺言執行者を含む)に対する意思表示で可能です。
② したがって、取消にあたっても家庭裁判所に対する申述を必要とせず、遺贈義務者に対する意思表示で効力を発します。
③ 遺贈義務者が数人あるとき、そのひとりに対する承認または放棄の意思表示が、他の遺贈義務者に対し絶対的効力を持つと解する以上、ひとりに対する取消の意思表示も、絶対的効力を持つといってもいいでしょう。
④ 親族の規定による取消とは、後見監督人がある場合に、未成年者後見人がその同意を得ずに、未成年者を代理して遺贈の承認または放棄をした場合や、未成年者が自ら承認・放棄をするのに同意を与え、未成年者が承認または放棄をした場合、などです。
⑤ 受贈者のなした遺贈の放棄ですが、遺贈の放棄以前の受像者の債権者は、債権者取消権行使の要件を備える限り、放棄の取消を裁判所に請求することができると解されます。
承認・放棄の無効
① 民法の規定は、特定遺贈の承認・放棄の取消に触れるだけであって、承認・放棄の無効に触れてはいません。
② 承認・放棄の意思の不存在のときは、当然無効であり、無効のためになんらの意思表示を必要としません。
③ そうすると、いわば欠陥の小さい取消については、少なくとも遺贈義務者に対する取消の意思表示がなければ、前になされた遺贈の承認・放棄は、そのまま効力を持ちます。
④ しかし、欠陥の大きい無効の場合には、なんらの意思表示をも必要とせずに、前になされた承認・放棄の無効を主張できるということになり、取消と無効の間に若干の矛盾を生ずることになりますが、やむを得ないことと言わなければなりません。
包括受遺者の権利・義務
① 遺贈が包括名義でなされる場合、すなわち、遺産の全部またはその一定割合を与える旨の遺贈を包括遺贈といいます。この遺贈を受ける者を包括受遺者といいます。
② 包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有すると規定されたため、包括遺贈は被相続人(=遺言者)による被相続人の指定に極めて類似したものとなっています。
③ しかしながら、包括遺贈も遺贈の一対応にすぎず、包括受遺者を相続人そのものということはできませんから、包括受遺者が相続人とまったく同一の権利・義務を有すると解することはできないでしょう。
包括受遺と相続との共通性
① 包括受遺者は、当然かつ包括的に遺産を承継します。遺贈の効力が生ずると、包括受遺者は、遺贈があったことを知ると否とにかかわりなく、遺贈する割合の権利・義務(遺言者の一身に専属したものを除く)を当然に取得します。
② 特定遺贈の場合とは異なり、包括遺贈が物権的効力を有することについては、異論がありません。相続人と同じく、占有および瑕疵をも承継します。
③ 相続の場合と同様に、包括遺贈による農地の移転については、農業委員会(または都道府県知事)の許可を受ける必要がありません。
④ 相続人または他の包括受遺者(共同受遺者)が、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げる行為をしたときは、その行為は無効です。遺言執行者や相続人と並んで、包括受遺者もその無効を主張することができます。
⑤ 包括受遺者は、債務をも承継します。なお、特定遺贈がなされている場合は、包括受遺者もその義務者となります。遺贈の放棄または限定承認をしない限り、包括受遺者は、無限責任を負うことになります。ただし、遺言者が、これを免除または軽減できます。
包括遺贈と相続の差異
総説
① 包括受遺者の法的地位は、概ね相続人のそれに類似します。しかし、包括受遺者はあくまで相続人ではないから、依然として両者の差異は残ります。
② なお、包括受遺者が相続人でもあるときは、相続人としての権利義務を失うわけではないことは言うまでもありません。
法人について
① 法人は相続人とはなりえませんが、包括受遺者にはなりえます。
② いわゆる権利能力のない社団・財団はもちろん、その他の団体や施設も、代表者または財産管理人さえはっきりしているならば、包括受遺者足りうると解すべきでしょう。
遺留分について
① 包括受遺者が遺留分を有するわけではないことは明らかであります。
② したがって、たとえば、受遺分の二分の一以上を侵害するような特定遺贈があった場合でも包括受遺者は減殺請求をすることはできません。
③ その意味で、特定遺贈は包括遺贈に優先することになります。
遺贈の効力発生前の受遺者の死亡など
① 遺贈の効力が生じる以前に受遺者が死亡したときは、遺贈は効力を生じないのであり、代襲の問題は起こりません。
② 遺贈の放棄があった場合や受遺欠格の場合も同様です。
③ このような場合に、遺言者は、受遺者の相続人へ遺贈する旨を定めることができますが、それは、受遺者の死亡などを停止条件とする補充遺贈であって、「代襲受遺」ではありません。
④ 相続人または他の包括受遺者が、相続または遺贈を放棄した場合、放棄された部分は、相続人の相続分には添加されるが、包括受遺者の受遺分には添加されません。
共同相続人の一人の相続分の譲渡
① 共同相続人の一人が、その相続分を、第三者に譲渡したときは、他の共同相続人は相続分取戻権を有するが、包括受遺者はそこに含まれないと解するべきでしょう。
② なぜなら、この制度は、もともと遺産はできるだけ家族共同体内部の者に承継させるという趣旨に基づくものだからです。
③ 現在、この制度の存在理由事態が疑問とされていますが、そうだとすると政策的配慮からしても、上記のように解するのが妥当でしょう。
保険金受取人
保険金受取人として「相続人」という指定がなされている場合、包括受遺者はそこにいわゆる「相続人」には含まれないというのが最高裁判所の判例です。
遺産中の登記・登録を要する財産について
① 遺産中に、登記・登録を要する財産が含まれている場合、その登記・登録の手続きはどうなるでしょうか。
② 相続による登記は、相続を証する書面(戸籍謄本・遺産分割協議書など)を添えて、登記権利者(相続人)のみで、その申請をすることができます。
③ これに対して、遺贈による登記は、特定遺贈であれ包括遺贈であれ、登記権利者である受遺者と登記義務者である遺言執行者または相続人との共同申請によらなければならない、というのが実務の取り扱いだったようです。判例もこれを承認しました。
④ 包括遺贈は、当然にその効力を生じ、履行の問題を残さないということと、共同申請ということと理論的にどう説明するのでしょうか。
⑤ また、相続人不存在の場合の全遺産の包括受遺者も、登記をするにはそれに先立ち遺言執行者の選任を求めなければならないとするのは、果たして妥当か、といった点でやや疑問が残るところです。
包括遺贈による不動産取得の対抗の問題について
① 包括遺贈による不動産取得の対抗の問題についても、相続とは違った処理がなされるべきでしょう。すなわち、相続人が相続による不動産取得を第三者(表見相続人からの譲受人など)に対抗するには登記を必要としませんが、包括受遺者は、登記がない限り、第三者(相続人からの譲受人や差押債権者など)にその不動産に対する持分の取得を対抗することができないと解すべきです。
② その理由は、要するに、遺贈は相続と違って遺言者の意思による処分だからということに尽きるのですが、実質論としては第三者が遺贈の有無やその効力を確認することは相続開始の事実および相続人の範囲を確認するよりも困難だとみられるから、相続の場合以上に第三者を保護する必要がある、という点があげられると思います。
③ この場合、包括遺贈が、物権的効力を有することも上記のような解釈の妨げとなるわけではありません。なぜなら、不動産の特定遺贈を登記なくして対抗しえないことについては、物権的効力説にたつ判例学説もこれを否定していないからです。
④ 包括遺贈を第三者に対抗するためには、登記を必要とするといっても、現行登記法は、包括遺贈に対応する特別の登記手続きを用意していません。そのため、登記実務は、包括遺贈に対抗力を与えるために、包括遺贈の目的とされた個々の相続財産について、個別的に共有登記をするという方法をとっています。
受遺者の担保請求権
総説
民法第991条は、「受遺者は遺贈が弁済期にいたらない間は、遺贈義務者に対して、相当の担保を請求することができる。停止条件附の遺贈についてその条件の成否が未定である間も、同様である。」と規定しています。
本条の異議
① 本条は、停止条件付または始期付の遺贈において、受遺者が遺贈義務者に対して、相当の担保を請求しうる旨を定めています。
② 弁済期が遺言の効力発生時より後になる場合には、弁済期において、遺贈義務者が無資力化する恐れがあるため、受遺者を特に保護する趣旨で、この規定が設けられたのです。
③ 条件付権利者は民法総則によって保護されてはいますが、本条はその趣旨をさらに徹底させたものです。
④ 立法者の質疑応答に対して、次のような受け答えがあります。
質問者が「受遺者には保護が厚くて結構だが、相続人にとって酷なことではありませんか。」と質問したことに対して、立法者は次のように答えています。すなわち、「相続人はそれだけの義務は履行すべきものと覚悟しているのですから、すぐに相当の担保を供すればいいでしょう。条件付の場合は、供託さえしておけばよいのです。供託すれば、担保になるからそれでよいのです。必ずしもこれが酷であるということはありません。」と説明しています。
適用について
① 本条は、一般に、特定受遺者にのみ関する規定と解されています。しかし、立法者は本条の適用を、特定受遺者の場合に限定する意図はもっていなかったように思われる、と解する考えもあります。
② 実質的にみても、本条は、包括受遺者の場合にも、適用されて良いのではないかという考えがあります。なぜなら、条件成就前、または期限到来前の包括受遺者は、遺産分割の協議または審判の当事者たりえないし、さりとて他の相続人や包括受遺者のなす遺産分割を阻止すべき権限を有するわけではないからです。
③ そうして、遺産分割後、遺贈義務者たる相続人や包括受遺者が無資力化する恐れがあることは、特定遺贈であろうと包括遺贈であろうと異なるところはないのです。そうだとすると、本条を特定受遺者のみに関する規定と解するのは、狭きに失するものというべきだとしています。
④ 本条は遺言解釈の補充規定であり、遺言者がこれと異なる意思を表示したときは、遺言者の意思が優先します。明文の規定はありませんが、そのように解するのが当然かと思います。
担保の内容
① 受遺者が請求しうる担保の内容や種類については、特に制限がありません。
② 「相当」なものでありさえすれば、受遺者が、保証人を立てさせること、質権・抵当権を設定させることなど、いかなる担保を請求することも可能です。
③ 特定物遺贈の場合、その目的物自体に、質権や抵当権を設定させることもできます。特定不動産の場合には、所有権移転保全のための仮登記を求めることもできます。
④ 「相当の」担保というのは、受遺者の権利を保全するのに、必要かつ十分な程度の担保のことですが、その判断は終局的には裁判所にこれを委ねるほかにはないでしょう。
請求の方法
① 請求の相手方は、遺贈義務者たる相続人または(および)包括受遺者です。
② 相手方が数人あるときは、その各人に対して担保の請求ができるが、その場合には、各人の相続分または受遺分に応じる限度でしか、これを請求することができません。
③ 担保供与につき、共同相続人に連帯責任を負わせる旨の遺言意思ありと解釈することが望ましいとする見解もあります。これに対して、遺言の文言上明らかでない限り、分割責任と解するほかないと思われる考えもあります。
④ 相手方が、担保の請求に応じないとき、または担保の程度・方法につき協議が整わないときは、受遺者は裁判により担保の供与を請求することができます。
⑤ これは、家庭裁判所の審判事項ではないので、通常の訴訟手続きによるほかないと解されています。ただし、遺産分割審判に際して、家庭裁判所が、条件成就前または期限到来前の受遺者を利害関係人として、審判手続きに参加させることは認めてよいと解されてよいでしょう。
受遺者の果実取得権
総説
民法第992条は、「受遺者は、遺贈の履行を請求することができるときから果実を取得する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。」と規定しています。
本条の異議
① 本条は、特定受遺者の果実収取権取得の時期に関する規定です。特定遺贈の場合に限定する旨の文言はありませんが、事柄の性質上、そのように解して差し支えないとされています。
② 「遺贈の履行を請求することができるとき」というのは、通常の遺贈においては遺言者死亡のときです。また、停止条件付遺贈においては条件成就のときです。そして、始期付遺贈においては期限到来のときです。
③ すなわち、これらのときに、遺贈の目的たるものまたは権利は受遺者に移転し、それに伴って受遺者は果実収取権をも取得するというわけです。
果実収取権の内容
① 本条にいわゆる果実とは、「預金利子、土地建物の賃料、株式の配当などを総称」するとされています。
② 株式の配当については、判例があります。法定果実だけでなく天然果実も含まれることは、当然とされています。
③ 遺贈の目的たる物または権利から現に生じつつある果実の他、「生ずべかりし果実」もこれに含まれるかについては争いがあります。通説は、これを否定的に解しています。
④ それは、そのように解するのが遺言者の通常の意思に合致する、という理由に基づくからです。すなわち、遺言者は、死亡当時における財産を処分する意思を有するのが通常ですから、遺贈の目的である財産は、その遺言が効力を発生する当時における現状で遺贈されるものと推定すべきです。そして、現に果実が生じているならば果実もともに受遺者に引渡すべきであり、果実が生じていないならば目的たる財産をそのまま受遺者に引渡せばよい、というわけです。
⑤ そこで、たとえば遺贈の目的が無利息の預金の場合は、受遺者は法定利息も請求できないし、遺言者や相続人が継続使用している家屋のように家賃を生んでいない家屋が遺贈された場合は、家賃相当額を請求する権利もない、と解されることになります。これらの考えに対して、原則的にはそれでよいとしても、受遺者および遺贈義務者間の公平という見地からみて、遺贈義務者が遺贈の存在を知ったとき、ないし、遅くとも遺贈義務の履行請求を受けたとき以降については、受遺者は「生ずべかりし果実」ないし遅延賠償を求める権利を有する、と解すべきではあるまいかとの考えがあります。
⑥ なぜなら、通説のように解すると、遺贈義務の履行を引き延ばすことによって、遺贈義務者は、受遺者の犠牲において、事実上利益を受けることが可能となるからです。
⑦ そうして、その反面、遺贈義務者が遺贈の存在を知らない間の果実は、たとえ現に生じつつあるものであっても受遺者にこれを引き渡す必要はない、と解すべきであるとされています。
⑧ そうでないと、受遺者が長期にわたって遺贈の目的物の引渡しを請求せず、後になって一度に過去の果実まで含めて引渡しを求めた場合に、遺贈義務者にとって過酷な結果になるからと解しています。
⑨ 遺贈の目的が不特定物の場合は、目的物の特定によりその権利が受遺者に移転します。通説によれば、果実収取権もこのときから受遺者に帰属することになると思われます。しかし、この場合にも、遺贈義務者が悪意のときに限り、受遺者への果実収取権帰属の時期を遡らせて考えてもよいのではないか、との考えがあります。
⑩ なお、以上はすべて遺言者の意思が明らかでない場合の取り扱いです。遺言に表示された遺言者の意思がこれと異なる場合には、もちろん遺言者の意思が優先します。
⑪ たとえば、「引渡し以前に生じた果実は受遺者に与えなくてもよい」の場合がこれにあたります。また、「現実に生じた果実のみを、受遺者は取得する」といった遺言が、これにあたるでしょう。
遺贈義務者の費用償還請求権
総説
民法第993条は、「①遺贈義務者が遺言者の死亡後に遺贈の目的物について費用を出したときは、第299条の規定を準用する。②果実を収取するために出した通常の必要費は果実の価格を超えない限度で、その償還を請求することができる。」と、規定しています。
本条の異議
① 本条は、遺贈義務者が、遺贈の目的物について支出した費用および果実収取のために要した費用の償還請求権に関する規定です。
② 本条は、遺贈の目的物がすでに特定されていることを前提とするから、包括遺贈について本条が適用されません。
③ また、特定遺贈のうちでも不特定物遺贈については、やはり本条は適用されません。ただし、目的物が特定した後は、本条の適用を認めるべきだという学説が有力です。
④ なお、明文上の定めはありませんが、遺言者が遺言で別段の意思表示をしたときは、その意思が本条の規定に優先するものと解すべきでしょう。
遺贈の目的物に関する費用の償還請求権
① これについては、留置権者の費用償還請求権に関する民法第299条が準用されます。すなわち、遺贈義務者が遺贈の目的物について必要費(家屋の修理費用や税金など)を出したときは、受遺者に対してその全額の償還を請求することができます。
② また、有益費(家屋の改良費など)を出したときは、その価格の増加が現存する場合に限り、受遺者の選択にしたがって、その費やした金額または増加額の償還を請求することができます。
③ なお、有益費の償還については、裁判所は、受遺者からの請求により、相当の期限を許与することができます。その場合には、遺贈義務者は、有益費の償還がなされなくても遺贈の履行を拒むことができません。
償還できる費用について
① 受遺者に対して請求できるのは、「遺言者の死亡後に」支出した費用のみです。
② 遺贈義務者が、遺言者の死亡前に遺贈の目的物について費用を支出したことがあっても、それは相続財産の負担になるのであって、受遺者に対してこれを請求することはできません。
③ 遺言者死亡後の費用は、すべて償還請求できるのでしょうか。
問題は、条件付または期限付き遺贈の場合において、遺言者死亡後かつ条件成就前または期限到来前に支出した費用に関して生じます。
④ 本条においてだけ、遺言者死亡の場合のみが規定されているところを見ると、遺言者死亡後に支出した費用は、すべて償還請求の対象になると解するのが自然のように見えます。
⑤ しかし、条件成就前または期限到来前の遺贈目的物が、相続人に属することは疑いなく、したがってその間の果実収取権も、受遺者に帰属するわけでないことを考え合わせれば、費用償還についてだけ遺言者死亡の場合に限定することの合理的根拠はないようです。
⑥ 本条が、「遺言者の死亡後」と規定したのは、遺贈の効力発生の通常の場合を予想したからにすぎないので、条件成就前または期限到来前の費用の償還請求まで認める趣旨ではない、と解すべきでしょうか。
果実収取費用の償還請求権
① 果実収取権の帰属の時期は、第992条の規定するところでありますが、これにより受遺者に果実収取権が帰属した後、遺贈義務者が果実を収取するためにの費用を支出したときは、「通常の必要費」の範囲内、かつ「果実の価格を超えない限度」でその償還を受遺者に対して請求することができます。
② 「通常の」必要費というのは、果実収取のために現実に支出した費用ではなく、通常必要とされる程度の費用という意味なのでしょう。
③ 「果実の価格を超えない限度」でならば、現実に支出した費用の償還を請求できると解する余地もないわけではないでしょう。
④ しかし、ことさら「通常の」必要費と規定している以上、やはり通常要すべき費用と解するほかはないでしょう。
⑤ 果実を収取するための費用とは、例えば「収穫を得るためにする耕作の費用」や「家賃収受のために雇った集金人の報酬」などです。
遺言の効力発生前の受遺者の死亡
民法の規定
① 民法第994条は、遺言者の遺贈の効力が生ずる以前に受遺者が死亡した場合には、原則として遺贈の効力が生じない旨を定めています。
② 遺言の効力発生時において、受遺者は、権利能力者として存在していなければならないという、いわゆる同時存在の原則からするならば、死亡した受遺者その人に対して、遺贈の効力が生じないことは当然です。
③ 問題は、受遺者の相続人が代わって遺贈を受けることができないかです。本条は、これをも否定しています。
本条解釈上の問題点
① 本条は、特定遺贈のみならず、包括遺贈にも適用されます。規定上、必ずしも明らかではないが、代襲相続の規定の全容が認められていないので、そう解するのが自然でしょう。
② 本条は、遺言の効力発生以前に、受遺者が死亡した場合に関する規定です。遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したとき(本条第1項)はもちろん、停止条件付遺贈において、条件成就前に受遺者が死亡したときも、同様です(本条第2項)。
③ なお、解除条件付遺贈において、条件成就前に受遺者が死亡したときは、遺贈の効力には影響がありません。期限付き遺贈において、期限未到来の間に受遺者が死亡した場合も、同様です。すなわち、受遺者が死亡しても遺贈はそのまま有効であり、受遺者の相続人が、受遺者としての地位を承継することになります。
④ 以上につき、遺言者が、遺言で別段の意思表示をすることは可能と解すべきでしょう。
⑤ 遺言者の死亡、受遺者の死亡ともに、失踪宣告による死亡擬制の場合を含むことは当然です。受遺者が法人である場合は、法人の消滅について本条を類推適用するべきです。
⑥ なお、受遺者に欠格事由があるときは、受遺者はもちろん遺贈を受けることができません。のみならず、欠格者たる受遺者に直系卑属があるときでも、後者が前者を代襲して遺贈を受けることはできません。
遺言者が別段の意思表示をした場合
① 遺言者が、遺言で別段の意思表示をした場合に、それを本条の規定に優先させるかどうかについて、本条2項但書は、これを肯定しているに対して、1項ではなんら規定がありません。
② 本条2項但書は、遺言者の意思を優先させる旨を規定しているが、そこにいう遺言者の「別段の意思」というのは、「停止条件の成就前に受遺者が、死亡しても遺贈はその効力を失わない」旨の、遺言者の意思です。
③ ただし、本条1項の関連からいって、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡した場合にまで、同旨の遺言者の意思を優先させることはできません。
④ 「遺贈はその効力を失わない」というのは、遺贈の効力が、受遺者自身に対して生ずるということを意味します。そして、その地位が受遺者の相続人に承継されます。
⑤ すなわち、受遺者の相続人に対して直接遺贈の効力が生ずるわけではありません。したがって、受遺者に受遺欠格事由があるときは、その相続人は、けっきょく遺贈を受けることができません。また、受遺者の相続人が遺言者に対する関係で受遺欠格者だとしても、そのことは、直接の受遺者から相続するという形で遺贈の利益を受ける妨げにはなりません。
⑥ もっとも、この点は、遺言者の意思が「遺贈はその効力を失わない」という以上に明らかでない場合の取り扱いであって、遺言者の意思が「受遺者が死亡したときは、その相続人に(直接)遺贈する」という趣旨のときは、もとよりその意思が尊重されるべきでしょう。
解釈上の問題点
① 本条1項は、遺言者の意思を優先させる旨の但書を設けていないのですが、この場合にも遺言者の意思が優先するものと解する見解もあります。
② もしそれが、遺言者の死亡前に、受遺者が死亡したときでも、受遺者自身に対して遺贈の効力が生ずることを認めたものだとすると、賛成しがたいという見解があります。
③ なぜなら、1項と2項との文言上の差は、あまりにも明らかだといわねばならないし、また、そのように解することは、明文上の根拠なしに同時存在の原則に対する例外を認めることになるからです。
④ しかし、「遺言者の死亡以前に、受遺者が死亡したときは、その相続人に遺贈する」旨の遺言者の意思が表示されている場合には、もちろんその意思が尊重されるべきです。
⑤ しかし、これもまた、本条1項の適用を配慮するという遺言者の意思を優先させるからではなくて、遺言者死亡前の受遺者死亡を停止条件とする、受遺者の相続人宛の第2遺言(補充遺贈)が成立するからです。
遺贈の無効・相続財産に属しない権利の遺贈
遺贈の無効
民法995条は、次のように規定しています。
「遺贈がその効力を生じないとき、または放棄によってその効力がなくなったときは、受遺者が受けるべきであったものは、相続人に帰属する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示した場合は、その意思に従う。」
意義
本条は、遺贈がその効力を生じないときは、遺贈の目的物は、原則として相続人に帰属する旨を規定しています。遺贈がその効力を生じないときは、その目的物は、相続財産から逸出しないことになるのですから、それが相続人に帰属することになるのは当然です。
本条適用上の問題
① 本条は、特定遺贈にも包括遺贈にも適用されるというのが一般的な解釈です。しかし、本条は包括遺贈にのみ適用されると解する考えもあります。
② 「遺贈がその効力を生じないとき」というのは、遺贈が、無効または取り消された場合のすべてを含みます。ただし、本条は、ほかにも包括受遺者がいる場合を予想した規定だから、遺言全体が無効または取り消された場合(15歳未満の者の成した遺言、方式違反の遺言、詐欺・脅迫による遺言など)には、本条の適用が問題になることはありません。
③ したがって、本条にいわゆる「遺贈がその効力を生じないとき」とは、主として遺言の効力発生以前に受遺者が死亡したとき、停止条件付遺贈において条件不成就が確定したとき、受遺者に欠格事由があるとき、被後見人が後見の計算終了前に後見人に対して遺贈をしたときなどを指すことになります。
④ 遺言の効力発生当時において、受遺者が未懐胎であるときも同様に解してよいでしょう。
遺贈の一部が無効の場合
① 受遺者が一人である場合には、無効な遺贈の目的物が、相続人に帰属することについては争いはありません。
② それでは、受遺者が複数あり、その一部に対する遺贈が無効となった場合に、その目的物はどうでしょうか。
すなわち、他の包括受遺者に帰属するのか、相続人のみに帰属するのか、には争いがあります。一般的に、前者の考えが有力視されているようです。ただし、この考えに疑問を唱える学説もあります。
③ 複数の包括遺贈のひとつが効力のない場合、その受遺分を本来の相続人に帰属せしめるのが立法者の意思とする考えもあります。
相続財産に属しない権利の遺贈
民法996条は、次のように規定しています。
「遺贈はその目的である権利が遺言者の死亡のときにおいて、相続財産に属しなかったときは、その効力を生じない。ただし、その権利が相続財産に属するかどうかにかかわらず、これを遺贈の目的としたものと認められるときは、この限りでない。」
民法996条の趣旨
① 本条は、他人の権利を目的とする遺贈の効力について、原則として無効であるが、これと異なる遺言者の意思があれば、それが優先することを規定しています。遺贈に特有な無効原因です。
② 目的物が、自己の所有に属しているからこそ遺贈したというのが、通常推測される遺言者の意思です。
③ 目的物が相続財産に属さないときには、これを取得して受遺者に与えんとするのは、通常の場合ではないというのが立法者の意思です。
民法996条の遺贈の無効
① 本条は、目的物が特定のものまたは権利である場合に適用されることについては問題がありません。
② 長崎控判大11年の判例は、遺言当時、遺言者の所有に属しない建物を、遺贈の目的とした遺言は、無効であるとしています。
③ 金銭や不特定物の遺贈については、本条の適用はなく、常に有効とする考えがあります。また、不特定物でも、範囲を限定したものが目的であるときには、なお、本条が、適用されるとする考えもあります。
④ 目的物が、相続財産に属していない理由は、問われません。
⑤ 遺言者の思い違い、後に取得するつもりでいたが果たせなかった場合、遺言作成のときから所有になかった場合、作成後に遺言者の意思によらずに離れた場合、などが考えられます。
⑥ 目的物を、遺言者が遺言作成後に生前処分したときは、遺言を撤回したものとみなされるので、本条の対象外です。
民法996条の特例
① 本条但書は、遺贈の目的物が相続財産に属しているか否かにかかわらず、これを遺贈の目的としたときには、なお、遺贈が有効であるものを定めています。たとえば、第三者Aの所有物をBに遺贈し、遺贈義務者にこれを取得し、移転すべく指示をした場合は、但書に該当します。
② しかし、単にA所有物をBに与えるだけでは、遺贈を完結する意思が疑わしいので、遺贈は無効とされています。
遺贈義務者の権利・義務
民法第997条の規定
① 同条は、「相続財産に属さない権利を目的とする遺贈が、前条但書の規定によって有効であるときは、遺贈義務者はその権利を取得してこれを受遺者に遺贈する義務を負う。若し、これを取得することができないか、またはこれを取得するについて過分の費用を要するときは、その価額を弁償しなければならない。但し、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。」と規定しています。
② 本条は、相続財産に属しない権利の遺贈が、前条但書に該当して有効とされる場合に、遺贈義務者が負うかを期待したものであります。
③ これも、遺言者意思の推定規定であって、遺言者が、遺言で別段の意思を表示したときは、それが優先するものとされています。
本条適用上の問題
① 遺贈の目的たる権利が他人に属しているときは、遺贈義務者はこれを取得して受遺者へ移転する義務を負います。しかし、その他人は、遺贈義務者からの譲渡の要求に応ずる義務を負わないことは、言うまでもありません。遺贈義務者がけっきょく、目的たる権利を取得できなかったときは、受遺者に対してその価額を弁償しなければなりません。
② 「取得することができない」というのは、権利が存在してはいるが、権利者が譲渡要求に応じないために、遺贈義務者において、これを取得できない場合をいい、その権利がそもそも存在しない場合を含まないと解すべきです。
③ すなわち、後者の場合には、その遺贈が効力を生じないようになるのであり、したがって、遺贈義務者が価額弁償の義務を負うことはありません。
④ ただし、権利がはじめから存在しない場合と、遺言の効力発生当時には存在していた場合とでは、若干事情がことなるかもしれません。
⑤ 権利がはじめから存在しない場合は、いわゆる原始的不能にあたるから、遺贈は無効であることは言うまでもありません。
⑥ これに対して遺言の効力発生当時には存在していたが、遺贈義務者の取得前に権利が消滅した場合には、権利者の譲渡許否がこれより先ならば受遺者は価額弁償の請求を成しうるのに、遺贈義務者と権利者との譲渡の交渉が長引いているうちに、権利が消滅したときは、価額弁償の請求を成しえないことになって不公平だという理由から、かかる場合は本条の「取得できないとき」に含めるべきだとする見解があります。
⑦ しかし、権利者の譲渡許否の時期とか、権利消滅の時期とかいうのは、いずれも極めて偶発的な事情です。
⑧ これによって、受遺者の地位にある程度の変動が生ずるのはやむを得ないというべきでしょう。この場合にもはやり遺贈は無効となるのであり、価額弁償の権利・義務も生じないものと解して差し支えないものと考えます。
目的たる権利が遺贈義務者に属している場合
① 遺贈の目的たる権利が遺贈義務者自身に属している場合には、遺贈義務者は、当然にこれを受遺者に移転する義務を負います。価額弁償の方を選択する余地はないように思えます。
② しかし、そのように解することは、遺言者に他人の権利処分の自由を認めることになって不当であるから、かかる遺贈義務者も、他人の場合と同じく権利者として移転を承諾するかしないかの自由を有するべきでしょう。
③ そして、権利そのものの移転に応じないことにしたときは、本条本文後段にしたがって、受遺者に対する価額弁償の義務が生ずることになります。
④ 「過分の費用を要する」というのは、遺贈の目的たる権利を取得するために、不相当に多額の費用(売買代金だけでなく送料その他一切の費用を含みます)を要することを言います。権利者が多額の代金を要求するとか、目的物が遠隔地にあるため、費用がかさむ場合などがこれに該当します。
弁償すべき価額
① 弁償すべき「価額」というのは、権利の時価のことです。その算定時期は、受遺者が弁償を請求したとき(遺贈義務者が請求を待たずに弁償する場合にはその提供のとき)と解すべきです。
② 立法者は、「遺言が効力を生ずるときであろうと思う。すなわち、権利が受遺者に移るというときだろうと思う」と説明しています。しかし、他人の権利の遺贈は物権的効力を有するわけではないのだから、そのような説明は不適切という見解もあります。
③ 価額のなかに、損害賠償額が含まれないことは、いうまでもありません。
④ なお、弁済するべき価額が、相続財産の価額を超えるときは、その限度内で弁償すればよいと解すべきかと思います。
相続財産に属しない金銭および本条但書
① 以上の説明は、物または権利が、遺贈の目的になっている場合に関するものです。
② 相続財産に属しない金銭の支払いが遺贈の目的になっている場合には、遺贈義務者は、相続財産の価額内で、その義務を負担すべきことになります。
③ 本条但書によって認められる「別段の意思」というのは、どのようなことでしょうか。
それは、次のように考えられます。すなわち、「取得できないときは、他の類似のものを与えよ」とか、「取得できなくとも弁償しなくてもよい」があります。また、「たとえ過分の費用がかかっても権利を取得して移転せよ」と言った意思のこともあります。
④ 実在しない権利の遺贈や、相続財産の価額の限度を超える内容の遺贈は認められません。
不特定物の遺贈義務者の担保責任
民法第998条
① 同条は、次のように規定しています。
すなわち、その第1項で「不特定物を遺贈の目的とした場合において、受遺者が追奪を受けたときは、遺贈義務者は、これに対して、売主と同じく、担保の責任に準ずる。」と、定めています。
② また、同じく第2項で「前項の場合において、物に瑕疵があったときは、遺贈義務者は、瑕疵のないものをもって、これに変えなければならない。」と、定めています。
不特定物の遺贈
① 本条は、不特定物が遺贈の目的とされた場合、すなわち「種類を指示してのみ物が、遺贈せられたるとき」における遺贈義務者の責任を定めています。
② 不特定物を目的とする遺贈は、遺言者死亡のとき、遺産中にその種類の物がない場合であっても、他人のものを目的とした物とは言えません。
③ したがって、その遺贈は効力を生じ、遺贈義務者は目的物を調達して、受遺者に移転する義務を負います。
④ この点について、民法には何も規定がありませんが、種類債権一般の原則からいって、当然のことであります。
⑤ A株式会社の普通株式100株というような場合は、その品質について問題が生ずる余地はないです。
⑥ しかし、米100キロとか嫁入り道具一式とか、建築用木材100立方メートルとかいう場合には、給付すべき物の品質が問題になります。
⑦ 我が民法には、特別な規定がありませんから、一般原則により、中等の品質の物を給付すれば良いです。遺言で品質を定めていれば、それによることもちろんです。
⑧ 不特定物の遺贈とは、遺言者が種類と数量のみを指示して、遺贈した場合であります。しかし、実際には、不特定物の遺贈といっても、遺言者所有の不特定物を目的とするものであり、種類遺贈と言えない場合が多いようです。
⑨ 遺言者所有の一定種類のすべての物、たとえばA会社の株式100株とか、米倉の中の米全部という場合は、その特定の物を目的とする遺贈であって、不特定物の遺贈ではありません。
⑩ ある種類の物の一定量が遺贈された場合でも、遺言者は、自己所有のもののなかから、一定量を遺贈する意思であることが多いようです。この場合は、限定種類物の遺贈というべきでしょう。
限定種類物の遺贈
① 相続財産のなかのある種の不特定物の一定量が遺贈された場合が、ままあります。
② たとえば、遺言者所有の某会社株式100株のうち50株とか、倉庫のなかの100キロのうち50キロという場合は、その種類の物が相続財産中になければ、遺贈は原則として効力を失います。
③ 目的物が相続財産中にある限り、その遺贈は効力を生じ、受遺者は、いわゆる限定種類債権を取得します。そこで、一種の不特定物遺贈として、本条の適用を受けることになるでしょう。
④ しかし、その種類物の一部がすでに処分されていて、遺贈された数量と同じか、それ以下しか存在しない場合には、遺贈の目的物は、その残存物全部であることになります。
⑤ たとえば、株式100株のうち50株が処分されていて、残りが50株しかない場合、その50株全部が遺贈の対象となります。
⑥ あるいは、倉庫のなかの米100キロのうち50キロという場合の遺贈について、倉庫の米が30キロしかない場合、不足20キロについては、原則として遺贈は効力を失います。
特定物の選択的遺贈
① 土地などのように、個性に重きをおき特定物として取り引きされる物については、たとえ遺贈者の所有する山林のうち一町歩を遺贈するというような遺言の場合でも、受遺者は限定種類債権を取得するとは考えられません。
② この場合は、選択債権を取得すると解すべきかと思われます。しかし、判例は、この場合も限定種類債権であって、ただ目的物の選択について、選択債権の規定が適用されるにすぎないとしています。
③ 本件の場合、選択債権とみれば、選択の効果は遺言の効力発生時まで訴求し、最初から特定物の遺贈があったと同じに取り扱われるから、受遺者はその間の果実の返還請求ができることになります。
④ 遺贈義務者の担保責任との関係では、選択債権とみれば、最初から特定物の遺贈があったと同じになるから、本条の適用はないことになります。
⑤ そうすると、前2条の規定によって、遺贈義務者は原則として担保責任を負わないから、追奪される可能性のある物が選択された場合、受遺者は不利益を甘受しなければならないことになります。
⑥ これでは、遺言者の通常の意思に合致しないことが多かろうし、実質的にも妥当性を欠きます。このような理由から、選択債権の場合にも、通常は遺言の解釈により、遺贈義務者に本条と同じ担保責任を認めるのが適当である、という見解があります。
金銭の遺贈
① 一定金額の金銭を目的とする遺贈も、一種の不特定物の遺贈であります。
② しかし、金銭については、普通の不特定物とは異なり、その追奪や瑕疵はありえないから、本条を適用する余地はありません。
受遺者の追奪担保責任
追奪を受ける場合
① 不特定物を遺贈の目的とした場合、受遺者が追奪を受けた場合は、遺贈義務者は、これに対して、売主と同じく、担保の責任に任じます(民法第998条第一項)。
② 受遺者が追奪を受けるとは、遺贈義務者が目的物を受遺者に引渡して後に、その目的物の所有者たる第三者から、受遺者が返還請求を受けることです。
③ しかし、目的物が動産である場合は、それが第三者の所有であっても、受遺者が善意・無過失である限り、即時取得によってその所有権を取得します。よって、追奪が問題になることは少ないでしょう。
④ 目的物が不動産であれば、追奪が問題となることもあるでしょうが、不特定物として不動産を遺贈することはないであろうから、そもそも不動産について、追奪担保責任が適応される場合は、少ないでしょう。
⑤ したがって、追奪担保責任の解釈論は、あまり実益がありません。受遺者が所有権を取得する場合には、第三者は、遺贈義務者に対して、損害賠償ないし不当利得の返還請求をすることになるだけです。
遺贈義務者の責任
① 不特定物を目的とする遺贈では、遺贈義務者は、目的たる不特定物を受遺者に給付するべき債務(種類債務)を負います。
② 第三者の所有に属する物を給付しても、その者を処分する権能がないのであるから、所有権移転その他の処分の効果を生ずることはなく、債務を履行したことにはなりません。受遺者は、第三者から追奪を受けたときは、さらに代わりの者の給付を、遺贈義務者に請求できるはずです。
③ ところが、本条一項は、本来特定物を目的とする売買における売主の担保責任と同じ責任を遺贈義務者に課したのです。この点は、理論的に問題があると述べる学者もいます。
④ 売主と同じ担保の責任とは、売主は他人の権利をもって、売買の目的としたときは、その権利を取得して買主に移転する義務があるにもかかわらず、売主がこれを取得して、買主に移転できないときに負う責任です。買主は、契約の解除と損害賠償の請求ができます。
⑤ しかし、単独行為である遺贈については、契約解除は問題になりえないから、結局、遺贈義務者は、受遺者に対して損害賠償義務を負うのみです。
⑥ 立法趣旨からすると、売主と同じ責任とは、損害賠償義務の内容にまでわたるものではなく、単に債権法の一般原則による代物請求権を封じ、損害賠償に限ったというにすぎません。
⑦ したがって、この損害賠償の内容は、一般原則にかえり、本来の給付に代わる填補賠償と考えてよいでしょう。そこで、受遺者から代わりの物の給付請求をすることができないというだけで、遺贈義務者の方から進んで代わりの物を給付したとき、受遺者がそれを拒絶して、担保責任を問うことはできない、と解すべきでしょう。
追奪担保責任の規定の妥当性
① 受遺者に損害賠償請求だけを認めた理由としては、不特定物遺贈と言っても、多くは相続財産中に存在する物を遺贈の目的とすることが多く、受遺者が第三者から追奪を受けたときには、損害賠償をさせるほかないと考えたと言われています。
② しかし、この説明に疑問を唱える学者も多いようです。不特定物の遺贈を、相続財産中にないものを目的とすることも多いであろうし、相続財産中にあるものが遺贈されたときも、同種のものが全部処分されて、代わりの物がなくなることの方がかえって少ないであろうからです。
③ 解釈論としても、本条一項は売主の責任についての原則が異なるのに、ドイツ民法を模倣することから生じた立法上のミスであるから、不特定物給付の一般的原則にしたがって、受遺者に代物請求権を認めるよう解釈すべきである、という主張があります。
④ また、本項を無視しなくとも、遺言の解釈により、追奪の場合に、担保責任ではなく代わりの物の給付義務を課したとみられることもある、という学説もあります。
遺贈義務者の瑕疵担保責任
総説
① 民法第998条は、不特定物の遺贈義務者の担保責任を規定しています。
② 同条第二項は、前項(追奪担保責任)の場合において、物に瑕疵があったときは、遺贈義務者は、瑕疵のない物を以て、これに代えなければならない、と定めています。
不特定物遺贈における目的物の瑕疵
① 米100キロを与えるという遺言があったとき、遺贈義務者から受遺者に給付された米が虫食いあるいは、変質米であった場合は、遺贈義務者は、瑕疵のないものをさらに給付しなければなりません。単に損害賠償だけで済ますことはできません。
② 債権法の一般原則からいって、種類債権の場合、瑕疵あるものが給付されれば、それは不完全履行であって、債務を履行したことにはなりません。債権者は当然に完全なものの給付を請求できます。また、遺言者の意思からみても、瑕疵のないものを与える意思であったと推測すべきであります。したがって、本条二項は、不特定物債務についての本来の原則を示したものと言えます。
③ 物の瑕疵の場合に代物請求権を認めたのは、物の瑕疵は比較的早く発見されることが多いでしょうから、代わりの物の給付を命じても、困難が生じないと予想したためであると解釈した説もあります。しかし、目的物が追奪を受けた場合と瑕疵ある場合を区別する理由としては、説得力をもたないように思われます。
限定種類物遺贈における物の瑕疵
① 倉庫の中の米100キロを与えるという遺言がある場合、すなわち遺贈義務者が限定種類債務を負う場合も、受遺者に給付した米が瑕疵あるものであれば、倉庫中に完全な米が存在する限り、代わりの完全な物を給付しなければなりません。
② しかし、倉庫中の米すべてが瑕疵あるものであれば、遺贈義務者は、特定物遺贈と同じくその瑕疵ある物を給付すればよく、別に担保責任を負わされることはないでしょう。
③ 他に瑕疵のないものがあったが、それが処分されてしまったという場合には、瑕疵のない物の給付が可能であったのだから、遺贈義務者は、追完不能の不完全履行として、履行に代わる損害賠償責任を負うことになるでしょう。
④ 倉庫中の米が、相続開始のとき、すでに遺贈された数量しか存在しなかったときは、すでに遺贈の目的物は特定しているから、本条の適用外です。
特定物遺贈と担保責任
① 特定の物または権利の移転を目的とするサインは、その目的物を現状のままで債権者に引渡せばよいでしょう。
② 売買などの有償契約では、対価との関係で債務者に担保責任が課されますが、贈与、遺贈などの無償行為では、債務者は目的たるものまたは権利の瑕疵について、担保の責任を負わないのが原則です。民法551条はこの趣旨を明言します。同条一項ただし書が遺贈に適用される余地はありません。
③ 民法第551条第1項は次のように定めます。すなわち「贈与者は、贈与の目的である物または権利の瑕疵または不存在について、その責任を負わない。ただし、贈与者がその瑕疵または不存在を知りながら受贈者に告げなかったときは、この限りでない」の定めです。
④ 遺贈の目的が特定物であるときは、遺贈義務者は、その物または権利を遺言が効力を生じたときの状態で、受遺者に帰属させればよいです。この点について、異論はなさそうです。
⑤ これは、民法の起草者が、遺贈義務者の責任について、特則のない限り債権法の一般原則によらしめようとしたことにあります。また、このことは、本条の反対解釈から明白でしょう。
⑥ しかし、遺言者が、特に遺贈義務者に責任を負わせる義務を表示しているときは、例外的に責任を負います。民法997条・1000条ただし書のような場合です。
⑦ ちなみに、民法997条は次のように規定します。
第1項「相続財産に属しない権利を目的とする遺贈が前条ただし書の規定により有効であるときは、遺贈義務者は、その権利を取得して受遺者に移転する義務を負う。」
第2項「前項の場合において、同項に規定する権利を取得することができないとき、またはこれを取得するについて過分の費用を要するときは、遺贈義務者は、その価格を弁償しなければならない。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。」
⑧ また民法第1000条は次のように規定します。
「遺贈の目的である物または権利が遺言者の死亡のときにおいて第三者の権利の目的であるときは、受遺者は、遺贈義務者に対しその権利を消滅させるべき旨を請求することができない。ただし、遺言者がその遺言に反対の意思を表示したときは、この限りではない。」
遺贈の目的物についての物上代位性
民法の規定
民法は次のように規定しています。
第999条第1項 遺言者が遺贈の目的物の滅失もしくは変造またはその専有の喪失によって、第三者に対して償金を請求する権利を有するときは、その権利を遺贈の目的としたものとすると推定する。
第2項 遺贈の目的物が、他の物と符号し、または混和した場合において、遺言者が第243条乃至第245条の規定によって合成物または混和物の単独所有者または共有者となったときは、その全部の所有権または共有権を遺贈の目的としたものと推定する。
目的物の滅失等による償金への物上代位
① 本条が遺言者の意思の一応の推定でしかないことは明らかです。したがって、遺言者が別段の意思を表示しているときは、それに従うべきです。さらに、遺言者の意思が本条の推定に反すると認められるときは、遺贈義務者を反証を挙げることによって、代襲請求権の移転を免れることができます。
② 本条1項は、遺贈の目的物の滅失、変造またはその専有の喪失を原因として遺言者が償金の請求権を取得した場合のみで、遺言者が償金請求権を取得するにいたった法律上の原因は問われていません。広義の代償金の意味です。
代位の目的となる償金請求権
① 目的物の滅失の場合は、目的物自体の滅失のほか、目的物に対する所有権の消滅も含みます。
② 目的物自体の滅失としては、家屋や動産の焼失による保険金請求権および第三者の不法行為による滅失の場合における損害賠償請求権が代表的なものです。
③ 目的物に対する所有権の消滅としては、土地収用の補償金請求権などがあります。一部滅失や毀損の場合もこれに含めてよいとされます。
④ 遺贈の目的物が共有持分であって、共有物分割の結果、遺言者が償金請求権を取得した場合も本項の問題でしょう。
⑤ 目的物の変造による所有権の消滅は、符号、混和、加工によって法律上その物が滅失し、新たに生じた物が他人の所有に帰したために、遺言者が償金請求権を取得した場合が該当します。
⑥ 目的物の占有喪失、第三者の占有侵害による損害賠償請求権は、目的物の所有権がなくなるわけではなくて、物自体の返還請求はできるわけですが、目的物に代わる損害賠償もありえます。また、第三者が物を保管するにあたり、その不注意によってその物を喪失した場合の保管者に対する損害賠償請求権もこれに該当するでしょう。
代位
① 「その権利を遺贈の目的としたものと推定する」のであるから、遺言が効力を生ずると同時に、その請求権が遺贈の目的物となり、受遺者に帰属します。
② 受遺者は、遺言者の代位権者として、償金請求権を第三者に対して行使するのではなくて、相続財産としての償金請求権を、遺贈の目的物として相続人から移転を受け、自己の権利として第三者に行使するのです。
③ 本条1項が適用されるのは、目的物の滅失などが遺言の作成後に生じ、かつその償金請求権が存在している場合です。
④ 目的物の滅失等が遺言作成前に生じている場合には、本項の適用はなく、遺贈は無効です。
⑤ 遺言者が生前に償金請求権を譲渡した場合は、本項適用したとしても、遺言と抵触する処分をしたことになるから、遺言は取り消されたものとみなされます。
⑥ 遺言者が生前に弁済を受け、償金請求権が消滅した場合も、本項は適用ないというのが通説です。
⑦ 遺言者の死亡後に、善意の第三者(たとえば相続人)が、弁済を受けた場合は、すでに償金請求権が受遺者に帰属して後のことであるから、受遺者がその第三者に対して、不当利得の返還請求をなしうることは当然でしょう。
⑧ これに対し、遺言者の死亡前に善意の第三者が弁済を受けたときは、遺言者がその第三者に対して、有する不当利得返還請求権が、本項によって遺贈の目的とされたと推定してよいでしょう。
⑨ 遺贈の目的たる家屋に、抵当権が設定されていた場合に、それが滅失して、火災保険請求権が発生すると、抵当権者の物上代位と本項による受遺者の権利との関係が問題になります。物上代位物たる請求権が他に移転した場合に、担保権者が追及して物上代位をなしうるか、という問題です。
⑩ 受遺者は、遺贈の目的物に担保権が付着している場合にも、遺贈義務者にその消滅を請求できないのであるから、受遺者の償金に対する権利が担保権者に劣をしたとしても、実質的公平に反することはないと言えます。遺言者の死亡によって保険金の請求権が受遺者に移転しても、受遺者が弁済を受けない間は、抵当権者が優先すると解すべきでしょう。
第三者の権利の目的である財産の遺贈
① 民法1000条は「遺贈の目的であるものまたは権利が、遺言者の死亡のときにおいて、第三者の権利の目的であるときは、受遺者は、遺贈義務者に対し、その権利を消滅させるべき旨を請求することができません。ただし、遺言者がその遺言に反対の意思表示をしたときは、この限りではありません。」と規定しています。これは、特定物遺贈の目的であるものまたは権利が、地上権や抵当権の目的となっている場合に、受遺者は遺贈義務者に対して、その権利を消滅せしめようと請求し得ないとする規定です。
② 第三者の権利とは、用益物権は含まれます。すなわち、遺贈の目的である土地の上に存在する第三者の地上権、永小作権、地役権が本条でいう第三者の権利に含まれることについては異論はありません。賃借権も用益物権と同視すべきです。対抗力のある賃借権、借地権、借家権、小作権などを用益物権と同視すべきことについては問題はありません。しかし、動産上の賃借権については、遺言者の意思解釈の結果、遺贈義務者において目的物の返還を受けた上で、受遺者に交付すべきものと考えられる場合が多いでしょう。
③ なお、動産賃借権は、譲受人に対抗できないから、受遺者からの返還請求を第三者は拒むことができません。したがって、受遺者が所有権にもとづく返還請求をした場合、賃借人である第三者は受遺者に返還せざるをえず、相続人に対して債務不履行にもとづく損害賠償を請求することになります。
④ 第三者の権利が担保物件であった場合(たとえば抵当権)受遺者はその担保権の消滅を請求することはできません。これは相続開始当時における、そのままの状態で、遺贈の目的物を引き渡せばよいと解するからです。しかし、本条は受贈者と遺贈義務者との関係についてのみ規定するものです。物的担保権者である第三者は、追及権を持つから、その目的物が遺贈されたと否とにかかわらず、そのものの上に権利を行使することができます。したがって受遺者は、担保権の実行によってその者の所有権を失う危険があるときは、債務の弁済を強いられることになります。そして、弁済後は一般の物上保証人あるいは担保付物件の譲受人と同じく、債務者に対して求償できることになります。
⑤ 以上が本条起草者の解釈です。すなわち、本条は物上負担に関するのみで、それが担保する人的債務に関するものではありません。担保債務を弁済した受遺者は、遺言者が債務者であったときは、人的債務は相続人に相続されるから、相続人に対して、求償権ありとするものです。これに対しては反対意見もありますが、受遺者は、物上保証人としての責任を負うのみで、物上保証人の求償権まで制限するものではありません。したがって、債務者が相続人であるとその他の者であるとを問わず、受遺者は求償できるものと解すべきでしょう。
⑥ 担保権は、民法上の担保物件のみでなく、買い戻し権や譲渡担保権も含まれます。ただし、受遺者の権利の存在の余地を残さないような第三者の権利があり、それによって追奪を受けた場合は、第996条の問題です。すなわち、「遺贈は、その目的である権利が遺言者の死亡のときにおいて、相続財産に属しなかったときは、その効力を生じません。」との規定です。
⑦ 第三者の権利は、遺言作成前に成立したものであると、作成した後に成立したものであるとを問いません。また、遺言者が、第三者の権利の存在を知ると否とを問いません。第三者の善意・悪意も関係ありません。
⑧ 遺言者が遺贈の目的物の上に存在する第三者の権利を消滅させるべきことを請求する権利を有していたときは、この消滅請求権は、遺贈の目的物または権利の従たる権利として、受遺者に移転すると解すべきです。たとえば、遺言者が、抵当権や借地権などの設定されている土地を、これらの権利を消滅させる約束のもとに買って、これを遺贈した場合は、受遺者は売主に対してその抵当権などの消滅を請求し得ます。
⑨ 遺言者が、遺贈義務者に第三者の権利を消滅させる義務を課する旨の意思、あるいは受遺者に債務をも負担させる意思を表示しておれば、それにしたがうことになります。
債権の遺贈の物上代位性
① 債権を遺贈の目的とする場合について、民法は規定しています。すなわち、民法第1001条は、「債権を遺贈の目的とした場合において、遺言者が弁済を受け、かつ、その受け取った物がなお相続財産中にあるときは、その物を遺贈の目的としたものと推定する」、その第二項は「金銭を目的とする債権を遺贈の目的とした場合においては、相続財産中にその債権額に相当する金銭がないときであっても、その金額を遺贈の目的としたものを推定する」との規定です。
② 遺贈の目的たる債権が、遺言の効力発生時に相続財産中に存在すれば、その債権が受遺者に移転するだけです。遺言者が、死亡前にすでに弁済を受けていたときに、遺贈の効力をどう見るかが、本条の問題です。債権を目的とする遺贈は、遺言者がその債権の弁済を受けたときから、弁済として受け取った物を目的とする特定物遺贈として効力をもつことになります。
③ 特定物を目的とする債権のみならず、不特定物を目的とする債権も金銭債権以外の債権であれば、本条1項の推定を受けます。債権の目的が不特定物であったとしても、弁済として受け取られたその物が遺贈の目的となります。なお、遺言者の意思を推定する法文ですから、別段の意思が表示されているときにはそれに従うべきです。たとえば、遺言者が、債権の弁済を受けたときは、遺贈はただちに効力を失うなどです。
④ 弁済として受け取った物が相続財産中に存在しなければ、遺贈は無効です。その物が、相続財産を離脱する原因は、遺言者の行為によると第三者の行為または事変によるとを問いません。
⑤ その物の滅失によって、遺言者が第三者に対して償金を請求する権利を有するときは、その権利を遺贈の目的としたものと推定することになるでしょう。しかし、遺言者がその物を消費・毀滅、または他人に譲渡するなどした場合、遺言自体が撤回されたものとみなされますから、遺言は効力を失います。たとえ遺言者が、第三者から対価として物または金銭を取得したとしても、それに対して受遺者は何の権利ももちません。弁済として、受領した物がすでに相続財産中に存在しないときは、その物の代価を与えるというような遺言者の意思が表示されていれば、その意思にしたがうことになります。
⑥ 遺言者が、遺贈の目的たる金銭債券の弁済を受けた場合には、その受け取った金銭が相続財産中に残存しないときでも、またさらにその金額に相当する金銭が相続財産中に存在しないときでも、その金額を遺贈する趣旨であると推定されます。すなわち、遺言者が弁済として受け取った金額の金銭を目的とする遺贈として、効力をもつのです。その結果、遺贈義務者は、相続財産中にそれだけの金銭がないときに、他の財産を換価して遺贈を履行すべきはもちろん、換価すべき財産がないときも、遺贈義務があることになります。
⑦ A銀行に対する預金というように、増減することを予定した金銭債権が遺贈されたときは、遺贈債権額は遺言作成時の金額ではなく、遺言が効力を生ずるときの金額とみるべきです。したがって、遺言者が預金を出し入れして残高ゼロとなっている場合に、受遺者は遺言者が払い戻しを受けた金額(または遺言成立時の金額)を請求することはできません。定期預金100万円の遺贈があり、その預金が遺言者生存中に満期になり、遺言者が払い戻しを受けたとすれば、この場合は払い戻し金額が遺贈されたものと推定されます。
⑧ 遺贈の目的たる債権につき、代物弁済がなされ、遺言者が本来の給付に代えて他のものを受け取ったときは、そのものが遺贈の目的となると推定してよいでしょう。また、遺言者が遺贈の目的たる債権を更改して、他の債権を取得したときは、その債権を遺贈の目的としたものと推定できます。また、遺言者が、遺贈の目的たる債権を準消費貸借債権にあらためたときは、その債権を遺贈の目的としたものと推定されるでしょう。
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